ミクソサウルスの化石を調べる大人の自由研究-1日目

23/09/07 記事内に誤った判定が含まれますが、一連の記録としてそのまま残しておきます。 追加の現在情報が寄せられていて、関連する続きの記事があります。

InstagramやTwitterには時折投稿してたんですが、化石を買っては額装して飾っています。 基本的にはオーダーメイドになる額装の方が値段が高くなっちゃうような価格帯の化石ばかり購入してきました。

がしかし、この度はそんな枠を優に超えてきた魚竜、ミクソサウルスさんにお家に来ていただきました。 遠路はるばる2億5千万年前の、中国は貴州省からありがとうございます。

化石そのものに興味を持ったのは22年の秋頃から(恐竜は以前から好きだった)。 当時ヤフオクに出ていたイクチオサウルスの全身骨格に目を奪われたことが切っ掛けでしたから、原点たる魚竜に帰ってきましたね。 以降ミネラルマルシェに足を運んだり色々してるんですが、この話は割愛。

※ある程度興味がある人向けへの執筆です。したがって専門用語が解説されぬまま使われています。予めご容赦ください。

ミクソサウルス(学名:Mixosaurus)は、約2億5000万年前から2億4000万年前にあたる三畳紀中期アニシアンから ラディニアンにかけて生息していた絶滅した魚竜の属。化石はイタリア・スイス国境および中国南部から発見されている。 ミクソサウルスは1887年にジョージ・H・バウアーが命名した。名前は「混合されたトカゲ」を意味し、 これはミクソサウルスがキンボスポンディルスのようなウナギ型の魚竜とイクチオサウルスのようなイルカ型の魚竜とのミッシングリンクであることに由来する。 前肢の構造がイクチオサウルスのものと異なるため、バウアーはミクソサウルスを新属として命名した。 ―ミクソサウルス―Wikipediaより

気になるところ、真贋を調べる

先に前提の話として、購入する化石の真贋について、事実がどうであれ購入先にかかる問題は一切ないと考えています。 過去の事例を見ても残念なことに偽物が混じる可能性があるし、すべてがクリーンであることの方が珍しいまであるでしょう。また部分的に本物で修復の程度が未知数ということもあります。 ここで掲載する化石も調べたら出てきてしまいますが、ここで述べている内容とショップの評価は全く切り離されるべきです。

この情報公開の意図として、この化石が真であるかどうかは重要ではなく、真偽の判定の術を探り、広く公開することにあります。

で、本題ですが、せっかく貴重な化石を手に入れたら自分なりに観察して真贋を調べたいじゃないですか。 X0万円かかった人生の自由研究です。※実際には1日とかで調べられた内容を今書いてます。

自分の中で「ケイチョウサウルスが本物か」という話を掘っていったときに、怪しい化石に興味があったんですよね。 あとシンプルに恐竜然とした化石が欲しかっただけ。物欲と好奇心の両方です。

到着時の梱包は大変丁寧

香港から到着、段ボールらにケミカル類の臭いがありますが、これが元からなのか輸送中に付いたものなのかは不明。 上下方向も示されていて、かなり頑強に保護していてくださっていました。感謝。

なおやや余談ですが、バイク部品とかも然り国外からの輸入物に関わる梱包材は、中身の無事を確認した時点で即座に捨てるようにしています。 異国の虫やら微生物やら色々入り込む余地があるためです。国外から帰ってもまず洗濯とスーツケースの点検。

管理時点から破損

左が元々提供されていた写真もので、右が残念ながら角が折れた現物です。 補修痕が化石本体のそれと異なることから、後発的な管理の段階で付いたものと思います。また少なくとも検閲でできたものではないですね。

本体に傷がないし、やむを得ないので何も言わんといたけど、この点だけちょっと残念。

他方で、わざわざ補修する程度には重要なものとして扱われているため、偽物の可能性はやや下がりとポジティブに判断。

サンドブラストによるクリーニング

サンドブラストによる化石のクリーニングが施されたということで、実際の動画も公開されていました。 一度割れた母岩を結合してからサンドブラストによってクリーニングしていくという形ですね。

で、まず偽物の可能性を疑ってしまったのが、これと同じくしてケイチョウサウルスも同じようにクリーニングされている動画があったためです。 そちらも同じ作業所みたいだったんですよね。

私はケイチョウサウルスの存在に対しかなり懐疑的な見方をしているので、ここで偽物の可能性がやや上がり。

が、ケイチョウサウルスが仮に偽だったとしても、ミクソサウルスも偽であるとは成立しないので、その点は悪しからず。逆も然りですね。 ミクソサウルスが真だったとして、ケイチョウサウルスも真、とは限りません。

サンドブラストによるクリーニングの分かりやすい動画はこちら。 貴州省のそれなので、母岩もかなり今回のミクソサウルスの物に似ています。

実はひっそりと動画と同じ産地の、ちょうど同じようなウミユリの化石も手元にあるので、比較として使えてラッキーでした。偶然。

※今回の化石のクリーニングの動画は多方面での事情を加味した結果、引用としても公開しません。

ブラックライトの知見

よく化石の修復はブラックライトで見分けが(ある程度)つくと聞くので私もやってみました。実際よく光りますね。

サンドブラストは母岩を接合した後に施されていましたが、 サンドブラスト後にも修復を行っていることが分かります。脆い部分が露出したのでしょうかね。

ちなみに私のブラックライトはまぁまぁ出力のある物と思いますが、蛍光灯の下ではわずかにしか視認できません。 暗くしてやっとよく見えるので、販売会や販売店で、明るい状態でチェックするのは結構難しそう。 もちろん紫外線劣化の可能性から、勝手に当ててはいけないんですけどもね。

で、注意したいのは、明らかな補修痕でもブラックライトに反応しないケースがあります。 連続する線でも起こりえたので何かしらの条件がありそうです。 もしかして波長違いのUVライトなら反応するとかもあるかもしれませんが、今回は1種類のみで検証しています。

そもそも論ですが、混ぜ物がしてあって蛍光成分が変質したり、波長が変わるとかありえるので、必ずしもブラックライトで判明するとは思わない方がよさそうです。

それこそケイチョウサウルスの偽物の化石は彫刻されたものだったりもするわけですが、彫刻の場合は絶対反応しないですしね。

あくまで真贋の判定の1要素、というか補修の程度を図るもので、決定打にはなりえません。と、いうのが改めて分かりました。

母岩の補強や貼り付け

化石側面(裏面)の補修にかなりのバラツキがあるんですよね。 正直に、これ見た一瞬「張り合わせかなぁ、やっちまったかなぁ(≒偽かもなの意)」と思いました。

ただよく考えると必ずしもそうでないし、しかしどういう工程でこのような補強・保全が行われているのか不明なんです。 なので、事の真相を知るためには化石の保全方法、発掘方法を知る必要があります。どこに行けば知れるんだ。産地か。 (22年に北京で時間なくて化石資料館を回れなかったのが今になって悔やまれるな。)

一旦これを本物としておきます。そうすると、多分なんですが、いくらかの補修パターンが見えてきます。

一番上は剤を流し込んだパターンかなと、間に別の剤か元の母岩が入ってることからそう判断しました。 画像と説明順がちぐはぐで申し訳ないんですが、一番下も流し込んだパターンかなと思います。緩やかに傾斜があるからです。

仮に偽物のために張り合わせで態々この傾斜形状を作る意味はあんまりないですね。コストがかかるだけだし。 人工的に緩やかな傾斜のある母岩を成型するのはかなりむずそう。まぁ石膏みたいに熱が出てたわむとかあるのかもですが。

2番目と3番目は継ぎはぎしたパターンです。母岩が連続していても補強するそれが連続していないパターンがあります。

と、ここまで考えてちょっと戻ってほしいんですが、サンドブラストの動画の母岩、かなり層状に穴が開いてるんですよね。 これ埋めたでしょ絶対。というわけで、母岩側面の謎が解けました。やっぱり補強のために流し込んで埋めてそうです。

とはいえこういった修復や整形方法の情報は引き続き知りたい。 詳しい方が居れば是非コメントが欲しいし、興味好奇心から是非詳しい人に話を聞いてみたいと思う、いつの日か。

謎の骨への疑念からの発見

後になって気が付いたんですが、この骨なに?っていうのがありまして、それが赤いラインと青いラインの赤いラインの方です。

青いラインは明らかに背骨じゃないですか、「じゃあこの赤いラインの骨は何?」

引きで見ると緑のラインの方にもうっすらそれらしいのが見えてくるんですが、それにしても赤いラインと比較して情報量が違いすぎる。 どちらかというと内臓っぽい。

少なくとも Wiki に掲載されているミクソサウルスの写真の類からは似たようなものが見つからない。

で、調べていった結果、私が購入したのと同時期にオークションに出品されたミクソサウルスの化石の写真。同じような部位を見つけました。

拡大された写真がこちら。これ背びれに伸びた骨の根の部分に相当すると思います。背骨と背びれ用にと、別の骨が伸びてることになります。 ※こちらの化石も本物とするとして。

ただ他のミクソサウルスの化石とされるものに、同じような痕跡が見られないものが多いのも確かです。 ミクソサウルスについても種類がいくらかあるみたいなので、もしかして、この辺の痕跡から同定するとかもできるのか?

と、色々調べていって「Die stämme der wirbeltiere : 脊椎動物の体幹」なる本にイクチヨサウルスの骨格の写真が掲載されており、似たような骨を発見。 イクチヨサウルスとミクソサウルスは別種とされていますが、同じような骨格構造していてもおかしくないですね。

首の根元から背中の途中まで延びた、脊椎とは明らかに異なる骨の列が見えます。今回気になった骨はまず間違いなくこういった部位だろうと納得。

というわけで、疑念は持ったものの、この骨は適当に作られた物とは言えず、偽である確率は自分の中でさらに下がりました。

背骨と尻尾の違い

他に違和感を覚えた骨の構造があります。それは背中辺りと尻尾当たりの骨の構造の違い。明らかに密度、大きさ、形状が異なるんですよね。

結果的には先入観でしかなかったんですが、似たような形状が連続し、尻尾にかけて小さくなるものだと「思い込んでいた」んですよ。

ただこちらについては、検索して見つかるほとんどのミクソサウルスの化石に共通の特徴でした。 とは言え「こんな形状あり得るのか?」と思ったところから調べて良かった。好奇心を満たす知識が増えましたね。

腕の骨の構造

この化石の1つ残念なところがすべての腕・脚がかなり薄い所です。 が、もしかしたらそもそも腕は分厚いものじゃないでしょうし、土壌も踏まえるとこんなもんなのかもしれないです。

ところで右脚に特に白く露出している部分があるのです。母岩の断面には白いものは見られませんでした。

化石の修理と言えば石膏や粘土の類です。調べてみると、他の化石のことですが、白い部分が露出しているから偽物の可能性がある、みたいな書き口の情報も見つかります。

しかしこんなシボ感のある性質変化するような修復ってなかなかしないと思うんですよ。まぁなくはないかもしれないですけど。

こちら唯一きれいに残った左腕なんですが、白くはないものの同じようなシボ感が見られます。 これは贔屓目かもしれないですが、骨っぽい繊維状のなにかも感じなくはないです。

で調べていって出てきた情報がこちら。2001年に投稿されたミクソサウルス、イクチヨサウルスに関する論文より、ミクソサウルスの腕の骨の断面図だそうです。 (もしかして参照番号先を違えてテムノドントサウルスかも、いずれにせよ魚竜の類)

「骨の形状、化石で露出しているシボ模様によく似ている…!」偽の化石を作るにしたって、こんなところまでやるか? というところまで見つけて、この子はほぼほぼ本物と言ってよさそうだなと自分の中で結論が出ました。

この土壌で骨が白く残ることある?という疑問はまだ残ってるんですけど、そこは現時点で調べようがないですしね。 なので機会があれば非破壊元素解析とかやってみたいです(こんな小さい場所では計測・解析できなさそうだけど)。 パッと調べた感じ、一か月単位のレンタルしかなくて、この子が二体は変えちゃう金額なので、現実的じゃないんですけども。 サポート付きで2日とか、借りれないものかねぇ。

その他の情報

結論

それなりに本物である補強要素が見つかってよかったです。自分の中での疑問が晴れることが重要。 が、別に完ぺきな調査を終えられたと思っていません。だって「本物であってほしいという前提で調べてる」んだもの。 偽物だと疑ってかかれば、もうちょっとやりようがありそう。

まぁ仮に偽物であっても、これだけ精巧なオブジェを作るのに、自分じゃX0万円では成しえないので、納得の上です。

偽物についてのあるあるなんですが、基本的には製造コストが販売額を上回っては仕方ないんですよね。 今回のが本当に本物であってくれるなら、そういう意味では事前情報から十分な補強材料があったかなとは思います。

具体的な観察と作業で分かったことは以下のようなものでしょうか

  • 母岩の断面も重要な情報源である
  • ブラックライトに反応しない修復痕も多数ある
  • 骨格についてよく調べることは重要

「骨格調べる~」についてですが、以前より骨の数をきちんと調べるみたいなソリューションはあるんですが、 如何せん化石なんで平気で欠損とかあるじゃないですか、なので正しく見抜くのはやっぱりよほどの専門家じゃないと難しいと思います。

以下雑談。

これは感覚値ですが、化石に限らず、怪しいなと思えるかどうかについてはどうしても「慣れ」があると思います。 違和感があったら踏み込まない。踏み込んじゃったらあとは運にを任せるしかない。

今回みたいに化石とか物とかの場合、個人的には「自分ならどうやって偽物を作るか」みたいな視点で考えて、 そこをチェックしていくわけですが、これについても「コレがあったら絶対」みたいなのがないですしね。

いずれにせよ感覚を脱しえないし、偽物上手く作る人は、その辺を上手にすり抜けてきそうです。 ただ先の通り製造コストが本物を上回っては成り立たないケースがほとんどなので、そこだけ絶対かなと思います(これもレアケあるけど割愛)。

こんだけ書いておいて、実は偽物発覚、とかあったら笑ってください(そして冒頭にもあるけど購入先を調べて叩かないように)。

唯一まだ偽の可能性が追えるところはやっぱり側面の補強かなぁと思います。どうやって作業されているのかを知らないですからね。 どこかのタイミングで情報を追いたい。

23/09/07 記事内に誤った判定が含まれますが、一連の記録としてそのまま残しておきます。 追加の現在情報が寄せられていて、関連する続きの記事があります。