ケイチョウサウルスの夢:疑問と真贋
知らない方向けに先んじて説明しておくと「ケイチョウサウルス」という偽物の化石が大変多い恐竜(爬虫類)がいます。 最近になって化石を飾ることに興味を持つようになったんですが、ケイチョウサウルスの化石や生態について疑問に思うことが多いので、そのまとめです。 現状で文脈はあまり整理しておらず、殴り書きに近いです。
注意書き
注意を示しておきます。私は素人です。本文中に誤ったことも多く記載していることでしょう。 参照するに足りそうな論文も掲載してますが、少なくとも執筆時点では読み込んでいません。
当然のように自身の所有する化石にしても本物であることを約束できたものではありません。 (どころか、これを執筆し始めたのは化石に興味を持ってから3か月くらいしか経っていません)
写真だけで化石が本物であるか偽物であるかを断定できるような人も多くないでしょう。 ここでは趣味の範疇で疑問を呈するスタンスであることを前提に語っています。対象の化石の所有者に対して攻撃する意図はありません。 従って、一部の参考写真に参照や出典を示さないことを許されたい。必要なら削除します。
他方で、偽物の化石や過剰に修復した化石が流通していることは、この記事に興味を持った方も既知の通りでしょうし、 それらの存在を肯定する意図もありません。したがって一部に非難的内容が含まれます。
※ちなみに私自身は「その化石が本物であると自分を騙せるならそれが偽物であってもよい」というスタンスでもあります。 自分がそれを本物と思うか偽物であっても良いと思いながら楽しむのは良いと思うんです。人を騙すのはまた別の話です。
また同種の研究に従事するあらゆる方へ一定のリスペクトがあることをここに表明します。
ケイチョウサウルスは似た姿勢ばかり
私がケイチョウサウルス(の存在)に疑問を呈している最大の理由は、トップビュー(上面から見た、の意)の化石ばかり存在することにあります。姿勢についてもバラつきが少ないです。
冒頭の写真の通りですが「ケイチョウサウルス 化石」で調べると概ね似たような結果の画像が一覧できることでしょう。
「偽物が多く、その偽物がトップビューばかりだから、そう感じるだけであろう」という意見はありえると思います。
このとき GroundTruth 指標にするべき化石についてはどうでしょうか。 Wikipediaからの参照にはなりますが、そのWikipediaに掲載されている写真および画像は、論文や米国の博物館に掲載されるもの、 とされるので、少なくとも民間の化石コレクターのそれよりはマシであろうと思います。
By Xue, Y., Jiang, D., Motani, R., Rieppel, O., Sun, Y., Sun, Z., Ji, C., and Yang, P. - Xue, Y., Jiang, D., Motani, R., Rieppel, O., Sun, Y., Sun, Z., Ji, C., and Yang, P. 2015. New information on sexual dimorphism and allometric growth in Keichousaurus hui, a pachypleurosaur from the Middle Triassic of Guizhou, South China. Acta Palaeontologica Polonica 60 (3): 681–687., CC BY-SA 4.0, Link
論文掲載の物、雌雄の区別が前腕でつくとされるものです(後述)。
By Ninjatacoshell - Own work, CC BY-SA 3.0, Link
こちらが「North American Museum of Ancient Life」に所蔵されるとされるもの。 化石のメッカ、ユタ州にあるそれなりのミュージアムで化石のクリーニングとかもやってるみたいです。 仮にレプリカだったとして、少なくともオリジナルと比較して形状に偽りがあるようなものを展示することはないと信じたい。
とまぁ2点参照にできそうなものを掲載したが、見事にトップビューですね。
ON THE NEW PACHYPLEUROSAUROIDEA FROM KEICHOW, SOUTH-WEST CHINA
なお最初にケイチョウサウルスが発見されたときの論文もトップビューです。
水生生物で特殊な環境だから、トップビューで同じような姿勢ばかりなんだよ、というのは論としてありそうですが、イマイチ理屈が付けられない気もします。
仮に上の方から一律にスライスしていくような発掘をするにしてもです。災害の類で事故的に死亡すれば、水流も乱れるし、当人の姿勢は当然パニックで乱れます。 一瞬の内に圧死するような状況があったとして、多くの個体が同じような姿勢で美しく死亡する、なんてミラクルが起きるでしょうか?
まぁ現存する化石にはなんでこんな絵にかいたような状態で死んだ?というものも多くありますが、少なくともケイチョウサウルスのそれは異様です。 偽物でないことが保証される化石をかき集めてみたいですね。
※乱れた姿勢の化石が本物とは限らないです。稀に記録がありますね。 当然似たような絵ばかりだと偽物と分かる、というように考える人は出てくると思います。化石に限らず偽物の歴史は長いですから。
そしてこれは当然のことですが、同系の別種、ノトサウルスなんかはケイチョウサウルスと異なり、らしいバラつきが見られます(気がします)。
参考にするべき資料
論文やジャーナル
※執筆時次点で論文内容などを追い切れてません。
- Keichousaurus-Wikipedia
- 英語のみがありますが、重要な論文の類への参照などが記載されています。
- ON THE NEW PACHYPLEUROSAUROIDEA FROM KEICHOW, SOUTH-WEST CHINA
- 1958年にケイチョウサウルスが発見・発表されたときの C.-C. Young. による論文です。実際に読むことができます。すべてはここから始まります。
- On the New Nothosaurs from Hupeh and Kweichou, China. Vertebrata PalAsiatica
- 1965年の同 Young 氏の論文です。新しいノトサウルス類と呼称されています。実際に読むことができます。
- Functional morphology and ontogeny of Keichousaurus hui (Reptilia, Sauropterygia). Fieldiana, Geol. (NS) 39: 1998.
- 1998年に Kebang Ling, Olivier Rieppel氏が書いた、おそらく博物館刊行の論文?書籍です。
- これを読めば以降に続く私の疑念のいくらかは解消するかもしれません。
- Genus Keichousaurus
- インターネットアーカイブになってしまっていますが、ケイチョウサウルスについての記録があります。
- 多くの有用なリファレンスはここから辿りました。
- Sexual dimorphism and life history of Keichousaurus hui (Reptilia: Sauropterygia)
- 残念ながら有料ですが、ケイチョウサウルスの性別差を上腕骨などの比から示す、とされる論文です。
余談ですが日本人研究者
- 佐藤 たまき
- フタバスズキリュウの命名の方であってますかね。
- ciniiの論文情報
- 以下の論文などはケイチョウサウルスに関する論文を執筆した方々と共著になっていますね。※1ケイチョウサウルスに直接の繋がりはない ※2すべては抜粋しない。
- 藻谷亮介
日本人で2名、ケイチョウサウルス類の情報に強そうな方々がいます。今後も是非に活躍していただきたい。
先駆者の記録
日本人の方がまとめた偽の化石の類に関する記録をまとめておきます。(今のところ国内情報だけだけど、再度興味持ったときは国外の情報も追っても楽しいかも)
- 海の古生物の代表選手が「怪しい化石の代名詞」に転落した哀しい話
- 偽化石に横行まで含めて非常によくまとめられた記事だと思う。
- 新恐竜秘宝館-Vol.22 ケイチョウサウルス
- レプリカを購入されたり、ご自身でクリーニングもされているようで、私のような机上の空論よりも説得力があると思う。
- 偽物の王様
- 合理的に偽物であることを推察するいくつかの情報が掲載されている。
- 開運なんでも鑑定団2022年8月9日放送「ケイチョウサウルスの化石」
- 開運なんでも鑑定団2018年10月16日放送「ケイチョウサウルスの化石」
- 参考情報としてはネタ枠ですが鑑定士の神保寛司さんは「東京サイエンス」の方ですね。
疑念とその理屈
いくらかの疑念と自問自答をまとめておきます。疑念の観点はいくらかがあります。 大きく(1)存在そのもの、(2)生態、(3)化石の真贋、の観点です。
繰り返しになりますが、先に提示した論文を読めばいくらかの疑念は解決するかもしれないです。
分布は明らかに狭い
ケイチョウサウルスは中国貴州省でのみ見つかっているようです。水生生物の割には分布がかなり限定的だなぁと思います。 似た生態系を形成してると思しき「ノトサウルス」などが広い地域で分布していることを考えると、違和感があります。
他方で、現代においても地域固有の種というものは沢山いて、必ずしも否定するものではないとも思います。
主に湖に生息していて、海に生息するものもいたが、個体が小さいために遠泳できなかったのではないか、という趣旨のテキストは見つかりました。
化石についてですが、「偽物の王様」にて言及されているように、母岩の特徴から判定する戦略はよさそうです。 明らかに生息分布は狭いので、母岩が明らかにその他多くの化石と異なるものは、偽物と判断してよいのかもしれないですね。
湖と海とでは明らかに母岩が異なってきそうではありますけどね。どこでどの程度採掘されたのかが分からない以上は見分けの基準にしてよい気がします。
骨格の多様さ
世間で流通している化石の骨格が、仮に偽物であっても、体格にバラつきがありすぎるように思います。 仮に狭い地域でのみ生息していたなら、そこまで急激な変化は求められないはずです。
偽物の化石のバラつきには"理屈が付けられます"。トップビューのサンプルだけがあって、手作業で量産すれば個体差はどうやったってつきます。 トップビュー以外の偽物がない(少ない)のは、トップビュー以外のサンプルがなかったのではないかと推測します。
本物とされる化石を指標に、各骨の大きさや比率が論文中の数値に収まるかどうか、みたいな基準で真贋判定する方法もありそう。
今の技術なら横から見た偽物だって作れてしまいそうですけどね。そういう偽物が出回った未来があったとして、 「ケイチョウサウルスらしさ」みたいなものが薄れる気がして、それはそれでつまらないかもしれないです。
骨盤などの形成
骨盤や肩回りに骨(人間でいうところの肩甲骨)のない化石が見られることに、あまり納得がいきません。
特定の痕跡がある化石が見つかったことと四肢の形状から、ケイチョウサウルスは胎生(卵胎生)で、体内で子供を直接生んでいたのではないかとされています。 現代の爬虫類や、他の恐竜にも似た生態のものがあったとされるので、これについては一定の納得があります。
ただし、仮にそうであっても骨盤周りから骨を廃するような進化(退化)を遂げるようには思えません(子供を産むために骨盤周辺を広く取る、の意)。 多くの化石がトップビューであることから、それらの骨は残るように思えますが、ない個体が多く見受けられます。
いくつか理由は考えられます。1つは表裏の都合です。骨盤や肩甲骨回りが表裏の関係で見られない場合です。この可能性が一番高いと思います。
もう1つは、化石のクリーニングの際に骨盤や肩甲骨を掘削してしまったケースです。 表裏が付くと考えれば、骨格によっては削り取ってしまう、は起こりえると思います。それにしてもそんなものが多いですけどね。
最後に、偽物であり、骨盤や肩甲骨を作るコストがかかるためです。
先の論文に掲載されているとされる A,B 個体たちについても、個人的には疑問が残ります。
Aには明らかに骨盤や肩甲骨がない、あるいは小さいです。雌雄の差別化を見るとするのであれば、 表裏が明らかで、より特徴がある部分を参照するのがまっとうではないでしょうか? 少なくとも始まりの論文の個体には見受けられます。後年の物にはないモノがあるという。
一般には同じ生息域、同じ時代の個体を比較するものだと思いますが、もしそれらが異なるとすれば、 それらを比較して前腕から雌雄を区別する、という手法がそもそもナンセンスです。
水生生物であるので退化した、という見方もできなくはないですが、それだと年代別で個体差を推定したりできるはずです。
ウルトラC的な可能性として、雌雄同体や後天的に雌雄逆転するような性質で、子を産む個体だけが骨盤を退化させる、とかはもしかしてあるのかもしれない?
いずれにせよ自分がケイチョウサウルスの化石を手に取ることがあるなら、表裏と、骨盤ないし肩甲骨周りの造りは見ておきたいですね。
追:超重要な研究成果が出てきた
「"中国の古生物学者ら、ケイチョウサウルスの思春期の発達を解明"-AFP BBNews」
この記事を執筆した後の2023年7月10日に、骨格の際についての論文が発表されています。 画像と以下のテキストは記事より引用抜粋したものです(別途、一部著作権が(c)Xinhua Newsとなっています)。
同じ種の異なる性別間でみられる顕著な身体的差異は、長い間「性的二形」または「第二次性徴」と呼ばれてきた。 ケイチョウサウルスは2億4千万年前に生息していた小型の海生爬虫類で、 その化石は中国貴州省(Guizhou)黔西南(Qianxinan)プイ族ミャオ族自治州興義市(Xingyi)と雲南省(Yunnan)曲靖市(Qujing)富源県(Fuyuan)で広く見つかっている。 ケイチョウサウルスの化石には、数量の多さと「性的二形」という二つの際立った特徴があり、春機発動期の発達を研究することができる。 研究チームは、幼年期、春機発動期、成年期、それぞれの個体の骨組織を比較し、骨密度と成長速度を分析することで、 ケイチョウサウルスは春機発動期に急速に成長したという結論に達し、春機発動期の発達開始と終了に関する情報を取得した。 春機発動期の雄では個体の上腕骨中軸断面が徐々に三角形を形成していくが、雌と幼体の上腕骨中軸断面は楕円形のままだった。
また研究には日本の東京都市大学も貢献しているようで、さらなる詳細は大学のページからも確認できます。
「世界初、中生代爬虫類の思春期を特定 ─古生物における性的二型の発達のタイミングが明らかに─-東京都市大学」
おおザックリには、「骨の断面に残る年輪から、2年のうちに急成長し、その後の成長は緩やかであると分かった」といった趣旨です。滅茶苦茶面白い話ですね。 骨格計上のバラツキにも説得力が出てくる気がします。
本筋とはやや離れますが関連する話題として、腕の特徴で比較するのは、もしかして良い方法なのかもしれないと思い始めました。 化石という保存状態が約束されないものの中で、ほとんど表裏を気にしなくてよいからです。仮に他の部位、私が先に上げたような、骨盤や肩周りの骨に差異がありそうだとして、 化石の表裏や、その掘削の影響が大きく出そうだなと。
それにしても腕以外の特徴の方が優先されないのはなんでなんだろう、という疑問はありますが、時間を置いて見方がちょっと広がったのでここに記録として残しておきます。
化石類のスケッチから見る
Functional morphology and ontogeny of Keichousaurus hui (Reptilia, Sauropterygia). Fieldiana, Geol. (NS) 39: 1998. に掲載されたスケッチを見ると、偽の化石の造りが見えるような気がするんですよね。 ただ、偽の化石製造時期と、これらのスケッチの初出が一致しないとは思います。なんたって40年後の発行ですからね。しかし似たような真似るためのサンプルがあったんじゃないかと思うんです。
スケールが異なるが、明らかに子供のような様相を見せている化石が見られるのは、こういった化石(ないしスケッチ)を参考にしていそう。頭部が大きいのが特徴的。
Reconstructionとしてスケッチされたものです。姿勢に遊びがないんですよ、図録用なので。ポーズを付けて作るの大変じゃないですか。 なんでこの手のモデルを参考にしてしまって、しかし全く一緒で動かさないのも変だから、少しだけ動かした、似たような姿勢の(偽物かもしれない)化石が多い、というのはあり得ない話ではないと思うんですよね。
他方で、関節の可動域の都合である、という話もあり得るとは思います。ただ腕の関節が動かないとして、そうするともう少し尻尾が長い方が水中を動きやすいような気がしないでもないし、もっと尻尾が遊んだ化石があってよさそう。 現代の動物の骨格と比較して、首長竜の類がどうやって動いていたか、みたいな研究は当たり前にありそうだから、もしかすると骨格の都合とかは強くあり得るかもしれないです。
あと肩甲骨周りは見えてますけど、このReconstructionスケッチからは股関節周りが良く見えないんですよね。それで偽物の化石に股関節部分が簡略化されたり省略されてしまったものが多い、とかなら理屈は通りそうだなと。
頭部が完全に空になった(偽かもしれない)化石も多くみられるじゃないですか、スケッチには上下方向から見たものが描かれてるんですけど、下から見た図ではかなりくりぬいて見えちゃってるんですよね。 実際には骨のように記録されているんだと思うんですけども、この辺りはきちんと論文を読んでいないのでわからず。
ただまぁ顎の部分が空洞になる骨、というのは現代におけるワニとか見ても分かる通り普通なんですけども、 そうだとして、その顎の空洞の下には頭部の骨が埋まってるはずで、その辺がゴチャって見えている化石もあまり見受けられないですね。 少なくともくり抜かれて見える化石の方が圧倒的に多くみられます。
この辺りの話は勝手に斜に構えた見方をしてるものであると自覚はありますが、なんとなく、そうなんじゃないかなーと思いを馳せてます個人的に。