ミクソサウルスの化石を調べる大人の自由研究-2日目

ミクソサウルスの化石の研究の2日目です。知見ある方からコメントをもらえたので、それに従って見直していこうと思います。 基本的には母岩の割れや連続性から真贋を分析してみよう、という趣旨です。

私にしても、化石本体と割れの関係に不自然な点はないか、過剰に修復されていないかどうか、という見方をすることがありましたが、 化石本体しか見ていませんでした。もっと母岩全体を見た方が良いことを1つ学びました。言われてみれば(ちょっと考えれば)確かにと思うところが多いです。

なお上記について、自分なりの考え方は過去にもありました。それをこれまで記録していなかった概ねの理由は、 それが自分の所有物ではなかったためです。写真だけで判断できる材料って少ないですし、 不用意に安易に評価を上下しかねない情報の言及は避けてきたんですよね。たとえ見てくださる方がいないか、少ないかだとしても。まして初心者ですし。

まぁ化石の真贋について語られる場なんていくらでもあるので気にしすぎかもしれないんですが、 これから知見がたまってきたらもうちょっと考えてもいいのかもしれないですね。注意書きをした上で。

明らかな母岩の補修

母岩の赤いライン、化石に被らないところですが、これは明らかに貼り付けがされています。元の母岩と連続していない可能性が高いです。

まぁまずはテクスチャ、表面の様相が境界面で違いますね。

実際に側面の様子を確認しても継いであることが分かります。 写真上が母岩全体の左の側面、写真下が下の側面です。明らかに連続性が見えませんね。

ただこれは化石の保護の上では必要な処理だと思います(というコメントもいただいており)。 化石を保護する目的で、境界面をきれいに研磨し、同じ土地で採取された異なる母岩を接着して保護する、は大いにありえる措置かなと思います。

実際に、現在進行形で母岩にちょっともろさを感じています。特に角。だもので、今は裏面は追わないようにしています。 ちゃんと時間と安全が確保できるときに。まぁそこまで過敏になる必要もない物かもしれないのだけれど、頻度は減らしたい。

尻尾の違和感

続いて尻尾の部分の違和感です。ここが一番継ぎはぎが存在し得そうなポイントだと思ってたんですが、この形状をよく考えると違和感があります。

拡大した様子がこちら。尻尾が互い違いに2列になってるんですよね。写真の左上にも図がありますが、可能性としては3つ。

1つ、すべて確かに同じ尻尾であるケース。1本の尻尾が裂けたような形で化石化しているなら、なくはなさそうな構図です。実際に骨の輪切りの形状が見えていますし。

2つ、母岩の割れを境に上2つが同じ化石で、下1つが異なる化石のケース。

3つ、2つ目の逆で、母岩の割れを境に上1つがそのまま本体から連続してきていて、下2つが異なる他の化石のケース。

いずれのケースも否定する材料がありますが、2が一番あり得るかなと思います。

1つ目のケースの否定材料ですが、こういうズレ方は難しいんじゃないか、という点につきます。 少なくとも、もし母岩を形成する土壌の動きによって化石が後天的にズレたのなら、後ろ脚にまで影響が出るかろうなと。 ない話ではないのかもしれないですけど考えにくい。

"仮に"継ぎはぎや彫刻でなかったとして、輪切りが見えている部分なので、 そういった捻じれのようなことが起こることもあるのかもしれませんが。

沢山の例と化石が生成される過程、土壌(地質学的観点)について知らないと、1つ目のケースを真と判断するのは難しそう。

2つ目のケースと3つ目のケースについてですが、2つ目のケースの方があり得そうです。

周辺大きな割れが2つ走っていますが、上の線は途中で止まっています。3つ目の線は大きな割れ跡として途中でTの字に分岐していきます。

写真では伝わりにくいと思うのですが、上の線の母岩には連続性が認められると思います。

だもので、追うべきは下の青い線がどうなのか、という所なんですが、これは母岩全体に広がるところなので、いったん後回しにします。 ちゃんと見るのに時間がかかる。ここでの観察とは別日として記録したい。

側面を見ると、断面がなだらかにカーブしている部分になります。 「異なる化石を張り合わせるために母岩の高さが合わなかった」とみれば自然かなぁと思います。

亀裂のところだけ母岩の厚みが違う点もそういう理屈なら納得の形状ですし、やや人工的に見える異素材も補強材に入ってます。

表層の様子や母岩の素材というか性質は、写真で見るほど違いはありませんが、 むしろ高さを揃えるために人工的に加工した程度の物だとすれば、割と納得があります。

尾の先端部分

この化石において明らかに断裂されてる場所は2か所で、もう1か所は尾の先端部分です。

母岩表面の様相を見る限り、繋がっているような気もするし、繋がって見えるように掘削したようにも見えます。十字上に伸びる亀裂の連続性はあります。

もし断裂した尻尾の先端に向かって継ぎはぎしているなら、十字上に伸びるもう一方の割れ(写真の赤線)は後発的に発生したものになりますね。

部分的に保護して、そこから先は保護しない、みたいな形になっている点からすると不自然さはあります。 ただ他のあまり怪しくない場所も途中までしか保護してなかったりするので、決定的なそれではないですね。

表層の様子は写真で見るよりは連続した印象がありますが、確たるものはない、といったところです。

ちなみに私は「違和感」は言語化できていないだけで、何かを知覚していることの方が多いと考えているタイプです。 このことは化石に限ったことではないのですけれども。なので、以降は継ぎを前提に見るのが良いと思って観察しました。

残念ながら、この部位について側面から継ぎはぎである確たる痕跡は見られませんでした。 ※もしかして自分以外の人が見たら見つかるかもしれないけど。

上が母岩下の側面、下が母岩右側の側面です。母岩下側に関してはちょっと黒く塗られた感のある印象があり、 しかし黒塗りするには雑すぎるという風でもあり、誤魔化すための物なのかはよくわかりません。

まぁでもこういった印象のある部分を持った側面がここにしかないので、恣意的な何かがあると考えるのが普通ですね。

写真は先鋭化処理を施しています。母岩右側の側面についてですが、少なくとも切り口の方向性は連続していることが分かります。 少なくとも完全に埋めてからカットしていることが分かります。

中央にある「コブ」の側面に流し込まれた剤がわずかに回り込んでいるのが分かります。 ここから推測できないかと考えたんですが、張り合わせでも、元からある凹形状を埋めるときにでも、どちらでも起きえる痕跡だと判断しました。 なのでここからは何もわからず。

1つ発見がありました。この記事の執筆にあたり、詳細な写真を撮ろうとしていて気が付きました。 ※あと情報提供してくださる方もいたので、気づきがあるかなと。

「この尻尾、捻じれてるかも」

体の方にさかのぼって尻尾を見ると、向かって右側が背中っぽくて、背びれのような骨が太く、向かって左側が腹側っぽくて、伸びる骨は細いです。 ところがですよ、この千切れた先端部分、逆です。向かって右側に細い骨が見られて、向かって左側に太い骨のようなものが見られます。

これ本当に寄りで写真撮るまで気が付きませんでした。ほとんど微細な物なので。

また、それぞれの伸び方も、逆らっているか、順方向かで違いがあり、これも逆転しています。 ただし、これが考慮に値するかどうかは不明です(自分がぱっと目にできるサンプル数が少ないが、たぶん考慮に値する、の意)。

まぁ変な話、「捻じり切れて化石化する」なんてこともありえるのかもしれないですが、継ぎはぎである可能性は高まりましたね。 継ぎはぎだとして、先端部分については特に、大きさとか雰囲気とか良く合わせてきたなという印象です。

他方で、仮にこの化石が本当に1つの骨格だったとして、このような形で尻尾が化石化する条件ってほとんどないと思うんです。 母岩の方に尻尾のズレに相当するズレの痕跡が見られないからです。

気がつけよって話ではあるんですが「見方を知らなければ見れない」んですよね。いい勉強になりました。

※後日の再観察なんですが、やっぱり捻じれて化石化した可能性もあるんじゃないかと思い始めています。 母岩表層の様子があまりにも近しいからです。近しいように見せかけて加工されたものなのか、私には同定できそうにもないです。 どちらかというと、継ぎはぎの方があるとは思います。

尻尾全体を通じて

これも考慮に値するものかどうか定かではないですが、骨のアーチの方向にバラツキがみられます。 胴体に近いほど、赤線のように上方向に山なりで、切断面より下は、青線のように下方向に山なりです。また先端部分はほぼフラット、やや上方向に山なりです。

他の同種か同系統の個体の化石を見ても類似するような例がなくはないんですが、特に赤と青には緩急がある気がしています。

話ややそれて至極感覚的な話ですが、なんとなく全体を眺めて「他の個体よりちょっと尻尾が長い気がするなぁ」とはぼんやり思ってました。 思えばこの感覚はフラグだったのかも。感覚的な物はあったが、それが機能していなかったのは、きっと見方を知らなかったからなんだろうなぁと思います。 この辺の話は骨の数をカウントするなどの方法でもアタリが付けられそうです。

結論

2日目の結論は以下の通りです。

  • 尻尾部分は継ぎはぎの可能性が高め。
  • 化石本体の修復や違和感ばかりを追わず、母岩全体を見る。
  • 部分的な写真だけで判断するのはかなり難しい。
    • 慣れが必要そう、一度知見を得ればかなり視界が広がる感覚はある。
  • 「化石本体に補修がない」の説明は正しくても「継ぎはぎ」の可能性はある。

あと1日目に書きましたが、全体をつないだ後にサンドブラストを施しますし、 サンドブラストによるクリーニングだからといって、化石全体が1体である保証はないですね。 なんなら「見た目の連続性を作る効果がある」ので、誤魔化す目的で使えてしまいそうです。

まだまだ見るべきところがあるんですが、時間がないので、2日目としてはここまでにします。 情報が集まらなければ1日目で終わってたことを考えると大きな成果が得られました。

継ぎの可能性が高いと分かれば、飾るにあたって多少の気楽さも出ました。 貴重な物だったら何かやらかしたら問題ですもの。継ぎがあるからと言って貴重ではない、と言うつもりもないですけども。

もしこの子から勉強するだけ勉強させてもらって譲るとしても、継ぎの可能性やらなにやらは全部明示した上でやろうと思います(このURLを張ればいいだけだけど)。 そうしてまた次の人が観察して分析してってなるといいなぁとぼんやり。現状は飾るつもりでいますが、どうしたものか。

とりあえず記録としてはもう1日分やりたい。

追:タフォノミー

「タフォノミー(taphonomy)」:生物の遺骸が生物圏から岩石圏へと移り変っていく過程の研究 ―コトバンクより

タフォノミーというそれを表す専門用語があるそうです。この現象をピンポイントで抑えた研究分野というか用語があるのも面白いですね。