アイコン スケルトン アーバントライブを衝動買いした

深夜のこと、本命時計の検討中に「ラクロア/アイコンのスケルトンのデザインを自分なりに再評価してみるか」と考えて調べていました。 そしたら限定版の「アーバントライブ」が1週間前に販売開始されていて、まだオンラインに1つだけ残っている、となり購入に至ってしまいました。

衝動買いというより、交通事故買いです。本命に目を向けていたところ、注意の外から突如として出てきたアーバントライブに撥ねられた感じ。 ※実際に交通事故に合われた方を揶揄する意図はありません。念のため。

私の腕周りは14.2~14.5mmと極細ですが、アイコンのサイズは39mm「スポーツウォッチとしては」個人的にはちょうどいい感じです。 スポーツウォッチは大きめ、ドレスウォッチはジャストサイズが理想だと考えています。ドレスで自分の評価が高いものは、いずれも大きいのが悲しい。

衝動買いの理由

(私は今現在は比較的自由に使えるとはいえ)お金持ちじゃない時計趣味にご法度な「見ずに買う」「間を置かずに買う」ですが、その禁を破りました。 理性的であった、というつもりはないですが、買う直前に考えていたのは以下の通りです。衝動買いに理由なんかあったもんかよ、というのは野暮です。

リセールが悪くなさそう

1つ目の理由として、人によっては忌避されるものと承知の上ですが、リセールがよさそうという点。 限定500本であること、少なくとも自分が衝動に駆られる程度には興味深い、と思った時計であることから、 究極イメージと違ってもリセール時の損失は大きくなさそうだな、と考えました。

それより手を出さなかった時のストレスの方が大きそうだった…。 限定生産数であることからも、特別感というか、所有欲というか、満足感は得られそうでした。

なお「満足感」とか「所有欲」の発想が出てくる人は、物欲がある人だと個人的には思います。

エングレービングされた時計に出会う機会

エングレービングされた時計に自分が出会う機会ってどれほどあるんでしょうと。

まず高級時計にわざわざ自分でエングレービング入れられるほどのお金持ちではないです。 もっと言えば、エングレービングするモチベーションもそんなにない。ジャガールクルトのレベルソみたいに裏面に掘るとかなら別なんですがレアケースでしょう。

かといって稀に見かける比較的安価な時計にエングレービングが施されたもの、が欲しい可能性があると言われると、そうでもない。 一定レベルの良い時計が欲しい、エングレービングそのものが主体ではい。

と考えたとき、モーリスラクロア・アイコンのこのエングレービングモデルは絶妙な位置に付けてきたな、と思います。 一定の時計製造技術を持ち、完全にデザインされた、この時計のためのエングレービングを施し、価格帯も安すぎず高すぎずです。

デザインについて考えさせる余地があった

私が時計の購入を検討するときに真っ先に考えるのって「デザイン(ルックス・合理性の双方を指す)」なんですが、 この時計はデザインを起点に、色々と思考を広げられそうだなと。時計というプロダクトの成り立ちとか、その辺まで考えさせられそうな時計だったんですよね。

ちょっと手を動かしてみた感じ、その話は長くなっちゃったので、ここでは購入したアーバントライブに焦点を絞った内容だけをまとめようと思います。 機械があれば別途。主にロイヤルオークの完成度の高さとか、ビスとか、そういうところに思考が伸びました。

絵が強く、長くは使えない(今しか使えない)かも

ネガティブ方面も当然考えていました。前提として「衝動買いの類はよくない」はもちろんあります。

良くも悪くも絵が強いので、長く使えない可能性があるな、とは思っていました。言い方を変えると年齢を選ぶ。 ブレスレットなどの装飾的に使うことを考えると、使える年齢、似合う年齢というのはどうしてもあると思います。

この点は今でも思っています。そしてリセールの話に返ります。

スケルトンの顔がベゼルに負けてない

そもそもなんで「スケルトンモデルを評価しようとしていたか」なんですが、 次のように、私がアイコンに抱えていた不満を解決していそうだったからなんですよね。

※好きな人やオーナーの方には申し訳ないんですが、私はそう感じていた、というだけです。 合理性を抜きに好きはあると思っていて、そもそも合理性を優位にとるなら、機械式時計は使うべきではないです。

アイコンという時計、ベゼルの爪が特徴的です。この爪はベルト(ブレスレット)の外観と連続するように考えられたものだと思います。 そこに装飾以上の意味を持ち合わせていません。鏡面仕上げですし、強く、分かりやすく装飾されています。

私がアイコンをあまり好きでなかった最大の理由がこの爪なんですが、分かりやすく華美で、カッコつけすぎかなぁ、 という見方をしていました。その割に傷が目立ちやすい鏡面仕上げだったので、まだ進化の余地を感じています。

また爪があまりにも強く輝くので、文字盤が負けているなぁとも見てました。 もちろん文字盤のクルドパリはそれなりにパワーがあるんですが、 インデックスや針も全体的に細く、総じて繊細なので、どうしてもベゼルの太く輝く印象との乖離を感じてしまいます。

絵を飾るとき、質素な絵に対して、それを上回るような装飾が施された額縁って使わないじゃないですか。 あるいはその逆で、豪華な絵に細く繊細なフレームって使わないじゃないですか。そういう歪さを感じているのです(私は)。

その点、スケルトンは「華美な装飾」によってベゼルに負けない文字盤、顔を作ってきました。 自分の中で、ベゼルと文字盤のパワーバランスが取れてきた瞬間でした。

エングレービングによって爪が活きる

「ベゼルには華美で分かりやすい爪」があると表現しましたが、アーバントライブはこの特徴を上手く使いこなしたと思います。 逆を言えば、その1点だけで引き込まれました。

時計全体に施されたエングレービングは、装飾とベルトからの連続性、そのいずれの特徴も残しながら、でも爪だけが目立つような特徴は消しています。

ただ全体にエングレービングがあるだけでは空間周波数が一様で飽きが来る、言葉を変えれば平坦・のっぺりに見えるところ、 部分的に立体になった爪がそれを回避しています。

ベゼル側面にはエングレービングが施されていません。この爪がなかったとしたら、完全に鏡面でなだらかな曲面だけが残されていて、 エングレービングとの連続性が生まれず、違和感があったでしょう。本当に爪が活きています。

爪だけが鏡面加工で強く反射して目立ってしまう問題は、エングレービングが上手く吸収しています(1枚目の写真はちょっと露骨に反射させてます)。

エングレービングは傷が全体的に目立ちにくいのも強みです。冒頭では割愛しましたが、傷が目立たなさそう、も結構な購入理由です。 傷がついて全体がマットな質感になってもそれはそれで、いぶし銀的にかっこよさそう。

レーザー加工技術

ところでこの側面について、もしかしてやろうと思ったらエングレービングできたのかどうか気になります。

アーバントライブに施されたエングレービングは通常の職人が行うそれとは異なり、レーザーエングレービングによる機械式です。 ところがこのベゼル側面部分、厚さのない曲面ですから、もしかしてレーザー加工が難しいんじゃないかと思うのです。

もしそうなら、爪はそういった技術的に困難なものを補うため本当に役に立っていることになります。

もしかして、単にベルトのコマの側面とか、鏡面仕上げの部分との連続性を維持するためにベゼル側面にエングレービングが施されなかっただけかもしれません。 むしろそっちの方が納得があります。コストもかかりますしね。

顔とエングレービングの連続性

私このスケルトンのアイコンの顔は「アーバントライブを想定してデザインされた」までありそうだなと思いました。 縁どられた曲線的なブリッジ、色合いまでもが明らかにエングレービングと連続するんですよね。

これより以前に出されたスケルトンモデルについても、縁取りされた曲線的なブリッジを採用しているので、 実際には「そんなことない」のでしょうが、それにしてもエングレービングとムーブメント外観の親和性が高い。

エングレービングには扇形の曲線と、それに従う▲が並んでいたり、時折◎が並んでいたりするのですが、 これが文字盤の奥に見えるブリッジや歯車、それを固定するビス(ネジ)の類と露骨に連続していて、それがすごくよいんです。

少なからずデザインの段階でアーバントライブとの組み合わせは頭にあったでしょう、きっと。

文字盤とベゼルの乖離は完全になくなり、絵と額の関係ではなく、全体が「絵」ですね。 絵である面積が大きいので、主張は見た通りかなり強いです。

PVに複線を感じた

「狙ってたのではないか」と思ってしまった理由は他に、スケルトンのPVにフリーランナーが採用されている点です。

アーバントライブの存在を知るより前にはシンプルに「分かりやすくカッコいい時計に分かりやすくカッコいいPV」の狙いだと思ってました。 そもそもなんですが、アーバントライブはフリーランナーのシモン・ノゲイラ氏のコラボモデルで、以前にも黒文字盤の物がリリースされています。

そうフリーランナーなんですよ。で、スケルトンのPVにはフリーランナーが登場しているじゃないですか。アーバントライブ出さない理由がないんですよね。

複線の埋め込みというか、ちょっとした情報の先出し、というか、悪戯心とか狙いすました戦略が垣間見えて、私そういうのが好きなんです。 実態は知らないですし、妄想の域は出ませんけどね。

話を少し戻して文字盤のデザインについてなんですが、公式には次のような説明書きが示されています。 新しいモーリス・ラクロアのアイコン スケルトンは、都会の建築物からインスピレーションを得ました。

それでいてアーバントライブの説明書きはこうです。 この時計を彩るさまざまなモチーフは、~略~世界の都市の建築物からインスピレーションを得ている。

ローターと視認性は装飾とトレードオフ

ケースのバックショットです。透かして見せるためにローターが肉抜きされています。デザインの観点からそういった合理性は歓迎されます。 ところがこのローターあんまり回りが良くない感覚があります。もちろん動くんですが揺れるに留まりがち。

肉抜きのためか重みがないので力がかかりにくいのでしょう。 かといって大きくすれば折角の透過を遮るし、重くするには分厚くするか金素材を使うかで、あんまり現実的ではないですね。 (個人的に金は思い切りがあってよいんだけど、コスト上がりますし、どの程度改善するかは疑問)

あと言うまでもなくですが、視認性は非常に悪いです。一応スーパールミノバですが夜間は殊更に見にくい。 なんであれば、ちょうどPVにある夜の街のような、わずかに光が差すようなシチュエーションだともう読めないです。

が、視認性はこの時計については最初から捨てでいいと思うのです。装飾に振った時計だと思います。

追:ローターはもしかして巻き上げ機構の都合でこういう動きになる設計なのかも?

アイコンのコスパがいいとは

アーバントライブの特徴以外の評価もしておこうと思います。よくコスパがいいと言われますが、どういったところがコスパが良いのか。

よく仕上げが丁寧と言われますね。ところが正直なところ、仕上げの良さなんて、数多く見て使ったことがある人じゃないと分からなかったりしませんか? そもそも論ですが、私的にはSEIKOやCITIZENもコスパだけで言えば凄くいいと思うんですよね。 それでも強いてコスト面を評価しようと思った次第です。アイコンについて回る一番の評価ポイントですから。

専用デザインのベルト

ラグスポたる所以の1つだとは思いますが、汎用的なベルトデザインではなく、専用のベルトデザインをしている点は評価するべきだと思います。 専用のデザインは使いまわせない都合上どうしても一定のリスクを負い、コストもかかってきます。

ベルトのコマはデザインの都合でテーパードしてますしね、一様な作業、部品で作れない分だけ、コストはさらにかかってきます。

やや余談ですが、(執筆時点で)比較的新しく出たラバーベルトの完成度も高いと思います。 クルドパリ装飾との連続性が維持されていて大変良いです。 先にはクルドパリであっても顔が負けてるみたいに書いていますが、クルドパリとその色が占める割合が増えてくれば、全然負けてません。

アーバントライブのように全部を絵にするのではなく、額の後ろにある壁紙を絵に寄せて、額まで含めて絵にした感じです。 後にも書きますが、個人的にはラバーベルトが正当な進化系と思います。完成度高いです。

面取りとペルラージュ模様

ケース本体もベルトの各コマも、それぞれ面取りされています。小さな部品、複雑な形状になるほど面取りのコストは上がりますが、きっちりやっています。 工作が好きな人からするとたぶん、この部品点数、この数の面取り、って逆算していくことで「コスパ」が見えるでしょう。

冒頭でも触れていますが、面取り部分の鏡面の程度については、多くの人にはあんまり分からないと思います。 似たような価格帯の時計の多くは、実はその程度には仕上げてきている気がしています(個人的には)。

グランドセイコーくらい磨かれてくると、さすがに見比べて「おっ」ってなるでしょうけどね。

これも多くの人に伝わらない話とは思いますが、着用していて思うのはリジッドに作られているなぁという印象です。 それは着用感が硬いという意味ではなく、工作精度が高く、不要な遊びがない、ということです。 一般的に削りの作業って誤差が出たりするもんですが全然感じないです。

スイス時計らしく、バックルの内側にペルラージュ模様が入れられているのは、大変素敵な計らいだと思います。 普段は絶対に見えない場所ですし、時計の機能に本質的では決してありませんが「これはスイス時計である」と感じさせるものがあると思います。 「抜かりなく作ってるぜ」という気概にも思えます。

※妄想の域を出ません

総評:アイコンの行き着く先の1つ

大げさな言い方をすると、今回のアーバントライブは、私の中では、アイコンという時計の行き着く先の1つに近しい完成度だと思います。

ベルトとの連続性と装飾を目的とした爪、そこに装飾要素たるエングレービングが施されることで、さらに爪の装飾を生かすようになった。 そしてエングレービングと透けて見えるムーブメントの連続性。「カッコよく見せる、装飾を目的にする時計として、やれることを全部やった」感がすごいなと思います。

仮に、本当にアーバントライブを見越したムーブメントのデザインだったならば、それは大層すごいことをやってのけていると思います。ましてこの価格帯でですからね。

似たようなことをグランドセイコーの白樺「SBGZ009」がやっていますが、あれは既存の文字盤にたいして、ケースのエングレービングを合わせた形ですし。

行き着く先の1つというのは、まぁたぶん正統派の進化じゃないからです。 正統派の進化は、先にも述べたようなラバーベルトのデザインの向上とかでしょう。

ブランドには、「成功とは終わりのない旅である」という考えが根付いています。 とされていますが、ラバーストラップの改良、最高にグッドですし、正統派な進化にも期待したい。

マーキュリーの機構が気になる

最後に余談というか自分用メモです。 モーリスラクロア、複雑機構というか特殊な機構を押していた時期もあり、 アイコンマーキュリーというモデルがその延長にあると思っています。

この時計、傾けると時分針が重力に従って遊んでしまい、水平にすると正常な時間を指すという機構を積んでいます。 フランクミューラーのシークレットアワーズのような遊びどけいがこんなところにあったとは。

正直、この手の機構はちょっと好きなんですが、いかんせん44mmと私の腕にはかなり大きめ。 ルックスも好みに刺さりきってないので、改良して出てきてほしい…。

現実的には好事家しか買わなさそうなので、ブランドの体力に余裕が出てこないと難しそうですね。 (それに一応のラクロアの枠はアーバントライブが埋めてしまったし、一枠と決めてるわけじゃないですが)

オーバーホール料金とかどうなっちゃうんだろ、それこそコスパ時計の枠組みではなくなってきそうな?