Sinn U50 のレビュー
私の手持ちにはダイバーズがなかったんですが、初のダイバーズ枠としてSinnのU50に来てもらいました。
ダイバーズを選ぶというより、G-SHOCKの視認性の悪さとファンクションの多さにちょっとした不満があり、 G-SHOCKの代替として、ハードに使える時計が欲しかった、という感じです。
内容がやや批判的な内容が多くなってしまっているんですが、総じて次のような人には勧められます。
- デザインが好き
- ベルトの微調整機能がないので
- 潜らないが防水性能が高い方が良い
- あるいは潜るときだけ使いたい
- できるだけ薄いダイバーズが良い
- 予算には余裕がある
総じて、かなり癖の強い時計かなと思いました。積極的にはおススメし難いです。 Sinnのブランド思想に共感がある、あるいは「どうしてもこれがいい」ときに選ぶべき時計かなと。
本文中で紹介していますが、より扱いやすいのはTUDORのPELAGOS39だと思います。 価格帯やスペックから、どうしても比較対象として避けられないでしょう。
他のSinnのモデルと比べる
Sinnの他のモデルにも魅力的な物がいくらかありました。U50の次世代機であるU50Hydroは、 5000m防水だし、オイルが入っているので、側面から見ても水中で見ても高い視認性を誇ります。 検討していた時に発売が決定されました。オイル入りはUXとかでも確認することが出来ます。
T50はチタン製のモデルです。U50はUボートスチールというドイツ潜水艦と同じステンレス素材なので、 それはそれで面白いですが、チタンという軽量素材は、 分厚くなりがちなベゼルに機能が付いたツールウォッチには適切に思います。
まずHydroモデルとの比較として、機械式かクォーツか、というのがありますが、 私としてはクォーツの方が良いと思っています。U50は機械式、Hydroはクォーツで、私はクォーツの方が良いと思っていました。 なぜなら多少は振動や磁性に耐性があると考えているからです(有効数値的なそれかは分からんが)。
あといつでも動いている、というのは突如動かなければいけないときの前動作が不要で、即効性はツールに求められる機能の1つだと考えています。
次いでデザインです。U50に惚れた理由は率直にデザインでしかないですが、Hydroではその特徴的な針のデザインが失われています。
オイルを入れてある都合上、抵抗の大きい針にはできないだろうと思っていたんですが、 SinnDepoの方に話を伺ったところ、それは正しいようでした。同じくオイルの入った他のモデルを垂直に立ててみると、 秒針が6時を過ぎて上るとき、やや後退気味に動くことが見て取れます。
U50とHydroの針形状の違い程度で動かないほど抵抗が大きかったら、 そもそも使い物にならないような気もするんですが、実際のところ動かせてもバッテリーの消耗が大きいのだと察しています。
そしてそのバッテリーですが、いざ交換となる場合、中にオイルを入れてある都合で、ドイツ本国送りになるようでした。 これは困った。Hydroに対する一番の懸念点はこれでしょう。コストも上がるだろうしメンテは時間がかかるし。
で、デザインと運用コストを考えてU50に傾きました。U50の中身はSW-300なので、汎用ですし。 (なおクォーツも機械自体は汎用の物が採用されている、問題は充填されているオイル)
T50とU50は単純にデザインですね。U50のブラックはPVD加工なので剥がれが生じる点に難があり、 それはT50のチタンむき出しでは起こりえないため、T50が候補にあがりましたが、 結局は針とインデックスの個性的なデザインに負けてU50に傾きました。
TUDOR PELAGOS と比較される良し悪し
PELAGOS39チタンモデルとも悩みました。これは使った後に見えてきたことも含みますが、 総合的に、PELAGOSの方が、価格は安いしダイバーズウォッチ、ツールウォッチとしての機能性は高いと思います。
防水性能はU50の500mと、PELAGOSの200mとで、U50の勝ちです。 ダイバーズウォッチの割にPELAGOSは200mしかないのが難ありだと思います。 PELAGOSをダイバーズウォッチとして見るべきではない、というのはあるかもしれない。
ケースの厚さはU50が11.2mm、PELAGOSが11.8mmで、U50の勝ちです。 PELAGOSもかなり薄い部類ではありますが、U50がこの厚さで500m防水を達成しているのはすごいとしか言いようがないです。
が、他のスペックについては、私にとってはPELAGOSが勝ちます。
まずPELAGOSは39mm径で、細身の腕には都合が良いです。U50は41mmとかなり大きい、 ベゼルで誤魔化しが聞いていますが、まじまじ見ると腕に対してやや大きいのが分かります。私の腕の幅は50mmくらいです。 外周は14.5mmくらい。
またU50はベルトの機能が良くありません。仮にも500m潜れるダイバーズウォッチなら、 ウェットスーツを考慮して、ベルトをわずかに伸縮させ微調整するような機能、 ロレックスでいう所のイージーリンクのような機能があるべきですが、残念ながらそれがありません。
この価格帯でベルト調整機能がない、というのはちょっといただけない。PELAGOSにはその辺きっちりあります。 もしかして特許と製造コストの都合かなとも思いますが真相や如何に。
最近(2024春時点)発表されたベルトではこの微調整機能が付くようですが、現時点でU50には付いてきません。
PELAGOSはメタルベルトの他にラバーベルトもセットでなおU50より安価ですから、ベルトでは負けてると思います。
ただし造り自体は非常に良いです。この辺は流石のドイツ製。 なので決して悪い物ではないが、ダイビングツールとしてはいかがなものか、といった感じ。
ダイアルの機構については設計思想の違いがありますね。
押し込まないと回らない、ネジ止めして衝撃によって外れない、のがSinnです。 これについては大変良いと思います。が、つかみにくさは正直あると思います。
素手なら気になりませんが、グローブをつけた状態で回すにはやはりギザギザが適切な構造に見えるし、 100mも潜れば冷たさが襲い始めるものです。しっかりグリップするにはちょっとこの凹凸形状は心もとない。
まぁでもこれは設計思想の問題です。絶対に決めた時間を動かしてはならない、という造りと言えるでしょう。
私は求められる機能を見るとき、ギザがあった方が良いように思っていますが、針、インデックスなどのデザインから見ると、 このベゼルの凹凸デザインは、空間周波数が一致していてよい気もします。 ギザにしたらインデックスや針の太さとの乖離が見えて浮くでしょう。
ただそれにしてももう1歩欲しかったなぁ。テストはしてるんでしょうけどね。
リューズが斜め位置にあるのは良いと思いました。元よりあまり緩めに着けない私はリューズが干渉することはほとんどありませんが、 操作しにくいなんてことはないです。
500m防水はリューズにも秘密があるのかなと思ってましたが、開けてみたらそんなことはなかった。
ムーブメントや保証も
PELAGOSは対磁性の高いCOSCを通している自社製ムーブメントであり5年の保証期間が付くことも大きな利点です。 TUDORでは、ムーブメントに不具合が生じたときは全面交換になってしまうようですが、 であらばそもそも限界まで使い込んで交換、みたいな立ち回りができるので、ツールウォッチとしてはむしろ正しいでしょう。
一方でU50は2年の保証、ムーブメントはセリタの汎用SW300です。 対磁性については、ケースがその役割を担っているようですが、一般的な対磁性能で、5cm以内なら磁気帯び無しってやつです。
汎用機械であるということは部品の供給が安定しているということなので、必ずしも悪い物ではありません。 ただCOSC通すほどの性能は持ちえないし、パワーリザーブも70時間と40時間とで開きがあります。
他に、Sinnは正規店購入の保証書がない限り、メンテ費用が倍額取られてしまいます。 公式でなくてもよい、という考え方なら、汎用ムーブメントなので修理は時計修理業者でもできそうではありますが、 500m防水を保証したり、もっと高度な機能を持ったモデルの場合に、果たして時計修理業者でそのスペックが約束されるかは怪しいでしょう。
U50はSinnの特徴であるところの特殊オイルを使った表記はないものの、一応-30~+70度までの耐久テストをクリアしているそうです。 ケースは兎も角、SW300で耐久してるので、もしかして他の時計もある程度は耐久できるのかもしれないですが、この辺のスペックを一般修理店で維持できるんだろうか。
というわけでオーバーホールなどのメンテまで考えると、保守コストはまぁまぁ高くなるケースが多そうです。 ましてドイツ本国送りになるときは大変高くつきそう。
テギメント・ブラックハードコーディング加工は本物だ(今のところ)
サウジの記録、自分以外の顔がド正面を回避しようとすると使えるカットが少なかった、旧市街なら旧市街、砂漠なら砂漠でやった方が良かった、素材少ないなら #insta360 pic.twitter.com/Z5pUxBVoDt
— JINE (@XJINE) May 2, 2024
Sinnと言えばのテギメント加工でしょう。私は買ったばかりのU50を身に着けて1か月半ほどサウジアラビアに出張に出ていきました。 出張先では機材を運んだり、砂漠に出かけては激しく動く車やバイクに乗っていたりと、強くぶつけることはないにせ、 無意識的に当てたり擦ったりすることは多くあったと思いますが、外装には傷なしです。すごい技術だ。
元々G-SHOCKの代替装備として探していたため、多少丁寧に扱うことはあれど、かなりラフ気味に使っています。
他方で1点だけ、これはSinnDepoの方に事前に聞いていたことですが「テギメント vs テギメント」は傷がつきます。 あるいは「ブラックハードコーティング」は傷がつきます。
一般に、PVDはどうしても剥がれるものですが、Sinnはテギメント加工の上にPVD塗装をすることで、剥離の要因となるエッグシェル現象を軽減し、 PVDが剥離しにくい、と謳っています。Sinnではこの塗装をブラックハードコーディングと呼んでいます。
今回ハードユースした結果でしょう、時計のベルトの留め具部分に、PVDの剥がれが確認できました。 着用状態で圧がかかれば留め具の内側はテギメント加工された金属面同士が擦れるので、 こういうことが起きたのだと思います。同じ硬度の物が擦れるんだから、それは削れるよねって当たり前の話ではあります。
(それにしても写真から見て分かる通り、サウジの砂が残ったままだった、ベルトの内側)