C.F.ブヘラのマネロオートデイトを細腕に乗せる

マネロ オートデイト 00.10908.08.13.01 ― Carl F.Bucherer

腕時計は服装と同じで、スポーツスタイルやカジュアルな服装ならオーバーサイズとか外しとかがあっていいんですが、 ドレスウォッチのようなクラシックなデザインのものについては、やっぱり適切なサイズがカッコいいと思うんですよね。

ドレスウォッチ探しをしてるとき、私の細腕では、精々38mm径が"限界"だと気が付きました。※理想は35~37.5mm。 私の腕周りは14.5cm、腕幅が湾曲を考慮せずに5cmくらいです。

そこで、日常使いできそうなステンレスの比較的安価な38mmの時計を試してみよう、って探した結果行き着いたのがマネロオートデイトです。 マネロオートデイトは38mm径でギリギリサイズですが、代わりにラグtoラグの長さが44mmと短いです。

結論としては、本当にギリギリ。このラグの短さがあって38mmでもなんとか許されるかなと。 なので35~37.5mmが限界サイズ、という見積もりは正しかったですね。

トップの写真は完全に真上からとらえた様子。ラグは湾曲を考慮せずに腕の幅に収まりきっています。これでも多くの人は大きいと評価するでしょう。

写真撮影時に公式のベルトが付いていて、それが腕のサイズに収まらないので、腕乗せだけなんですが、 ベルトを止めたとて、ラグと腕の間にはわずかに隙間ができます。

本来「サイズが合う」とはこの隙間がないような状態に思うのですが、まぁギリギリ見れます。

と、ここまで語っておいてなんですが、サイズとか試してみたいとかがあってのモチベーションが大きくて中古で購入しています。 気に入ってないことはないんですが、もしかして手放すのも早いかもしれないなぁと執筆時点では思っています。

と、言いつつ、以下で述べているように競合する時計が他にないので、どんどん使っていきたい気持ちもある。

ハイブランドが作る低価格帯の時計

マネロオートデイトの良い所ですが「ペリフェラルローターを開発できる技術力のあるブランドが作る低価格帯の時計」という点に尽きると思います。 要はそれくらい加工技術がある、ということなんですよ。

ペリフェラルローターとは、カールFブヘラの時計を代表する機構の1つと言っていいでしょう。図の赤い部分です。 ムーブメントの外周でローターを回すことによって、従来のローターと比較して厚みを抑えることができます。 そのほかにもメリットがあり、ムーブメントやシースルー機構を見えやすくすることができますね。

他社にもペリフェラルローターを採用している例はありますが、ブヘラほど積極的に使っているところはそうありません。

ブヘラが宝飾から発端していることもあって、薄くドレッシーに作ることに拘りを持っている、ということなんでしょう(真意は知らんけども)。 そのためか、スポーツよりはドレッシーで品があるデザインの方が上手いとも思います。

今回のマネロオートデイトは、残念ながらムーブメントは汎用のものです。 折角ブヘラに手を出すんだからペリフェラルローターでしょ、と思わないでもないんですが、 ペリフェラルローターはその特性上、外径が大きくなります。 当然のように38mmなどの小径モデルはありません。(あとペリフェラルローターは高い)

個人的に、ブヘラにはもう1つ得意領域があると思っていて、それが文字盤のサンレイ加工です。 ブヘラのサンレイはすごく綺麗な物が多くて、マネロフライバックとか、是非実物を見ていただきたい。青とか緑とかすごいきれいなんですよね。 (余談ながら、ブヘラとベルロスのサンレイが好き、昔のロレックスのサンレイは個体差があるとは聞いた話)

マネロオートデイトは、サンレイ加工の方は十分に堪能できます。

一見すると、インデックスがある外周にしかサンレイが施されていないように見えますが、 実際には、文字盤全体にサンレイが広がるように施されています。

これは公式の正面写真が悪いというか、映すことが出来ないというか、難しい所ですね。 これは所有者にしか楽しめない繊細さで、実は凝ってるんだぜ、っていうのが垣間見えるところです。

※上の写真はフィルタして見やすくしています。

シルバー文字盤の汎用性の広さ

購入してから気が付きましたが、シルバー文字盤は汎用性が高いなと思いました。いわゆる冠婚葬祭にビジネスで使えますね。

ビジネスにおいては、黒ほどモードにならず、威圧感がなく、青ほどのカジュアルさもない。 祝いの席においては、黒よりも明るく、輝きによってわずかに華やかであるとも取れる。白で主役になるわけでもなく。 葬儀にあっては、白ほど明るくなく。

悪く言えば中途半端かもしれませんが、広く解釈の余地が残る色です。 正直に言えば、白や黒でもいずれのシーンで活用してもいいと思うんですが、シルバーのがさらに中間択を取っている感(そら白と黒の間にあるのが灰なので、それはそう)。

類似する時計

各社公式より、引用元は下記のリンクリストで代替とさせてください。

マネロ購入するにあたり、同価格帯で類似するものがないかなーって調べました。構成要素が類似する時計は大体以下の通り。

大体10万円台から50万円台くらいまでの間でリストアップしました。最安はORIENTかKARL-LEIMONかな。

KARL-LEIMONは人気が出てきたためか執筆時時点で売り切れ。実際他のモデルを見た時は中々の出来だったので人気が出るのはうなずけます。 構成要素としてはどちらかというとカラトラバに近いルックスですけどね。

こうして見ると、同価格帯でシンプルな38mm以下のそららしい薄いドレスウォッチって全然ないんですよね。 ハミルトンだけもう少し昔に戻ればジャズマスターに小さいのがあったかもしれないです。ちゃんと楔形インデックスで。

上を見るとヴァシュロンコンスタンタンのトラディショナル、ジャガールクルトのマスターとか出てくるんですが、上が過ぎるので今回は比較対象から外しています。

低価格帯で、品のよさ、出来の良さでドレスウォッチを探すなら、中古のマネロオートデイトはかなり狙い目かもしれないですね。 ジャガールクルトまでいくと新品の価格帯が3桁万円。中古だって安くても新品のマネロの価格帯超えてきますから。

もしかして定価でもあんまり競合がいませんね。BAUME&MERCIERくらいか。

ケースサイズを許せるなら、スペックはBAUME&MERCIERのCliftonが圧倒的です。 この価格でCOSC認定の自社製キャリバー乗せてくるの正直ヤバい。一時よりかなり値上がりしましたがコスパ時計としての立ち位置は健在です。 定価ならマネロより安いですからね。

汎用ムーブメントへの理解深まる

公式にはマネロのムーブメントは「CFB 1965」とされていますが、これはセリタ社の汎用ムーブメントSW300-1をカスタムしたものだそうです。 実際のところ透けて見える機械から、それらしい機械を確認することが出来ます。ローターだけ加工して調整しているようです。

調べてみたんですがこのローターの素材は分からず。公式に問い合わせすると分かると思うんですが、流石に貴金属ではなくてメッキでしょう。 とは言え、きれいに仕上げてられています。※ローターは重い方が動くので、貴金属使われがち。

面白いことにこの時計はいわゆるETA問題、ETA社が自社グループにしかムーブメントを供給しない、とする以前より存在していたために、 「ETA 2892-A2」をカスタムしたムーブメントの物も存在するようです。「SW300-1」はセリタ社が製造する「ETA 2892-A2」のクローンです。

一般に300系は200系と比較して高級なものに使われるそうです。ムーブメントの厚さが1mm薄くなり、パワーリザーブも4時間ほど長いです。

ブヘラがドレスに採用しているのに比較して、Sinnのタフな時計でも採用しているのも見かけます。兎に角、少しでも薄くしたいし持続時間を延ばしたい場合に採用するようです。 薄くあれば、中に耐衝撃や耐磁のための他の部品を入れられる余地も出てきますね。

ちなみにムーブメント自体の価格も検索すると出てきますが、執筆時時点でSW300は4~6万円くらいで見られます。 ただし、いずれも本物であるかなど確認してません。汎用名だけあって、クローンが可能な製品であることには留意が必要です。

で、汎用ムーブメントの外装デザインにおける欠点が良く分かる時計だな、と今回分かりました。 当たり前ですが、ケースにおいてはケースサイズやケースへの収納方法が引きずられますね。厚さやリューズの高さに制限が来ます。

今回それ以外に露骨だなと思ったのが文字盤のデイト表示です。図の左がオリジナル、右が私が編集したものなんですが、 普通のデザイナならおそらく右のように文字盤のインデックスや円形の装飾に合わせたいと思うんですよ。 ところが、日付表示のディスクは汎用機の上で決められてしまっているので、動かせない。

実際のところ、自社ムーブを採用している異なる他のブヘラ製品は、インデックスや装飾と日付の表示位置が揃えられているものが多いです。

リューズとの対比もあって、特別にバランスが悪いというものではありませんが、 汎用ムーブメントはデザインの追い込みにおいて、こういう所に弱点を残すのかと良い学びが得られました。

逆を言えば、こういうところにこだわり始めると高くつくんですよね。 自社製を自社内で汎用化するにあたっても、同じ問題が起こるわけで、ムーブメントの設計段階からデザイナと技師とで双方に苦労しそうです。

ジョンウィックはなぜこの時計を選んだのか

この時計と言えば映画ジョンウィックですね。主演のキアヌ・リーヴス演じるジョンウィックが着用していますが、なんでこの時計選んだんでしょう? (以下は、そういうのを考えるのが面白いよね、って話です、1のシナリオだけを前提にしています)

実際のところ、ブヘラ公式のドキュメントに依れば、チャド・スタエルスキ監督がブヘラのファンでアンバサダーだったり、 また同スタントマンもアンバサダーだったりと「そういう繋がり」の方が大きそうです。

公式ドキュメントには「衣装やアクセサリーも過酷な動きに耐えられなければならない」とされていますが、 耐久性において、マネロシリーズはお世辞にも強い部類とは言えないでしょう。

耐水性は3気圧までだから雨に濡れる程度でギリギリだし、対磁性能があるわけでもないですし、耐衝撃性も精度も約束されているものではありません。 冷静に考えてみれば、殺し屋なんだからもっとタフな、それこそ007のジェームズボンドのような、オメガのシーマスターなどを着用していても良いように思います。

アンバサダーであるから、などのメタ的要素を除けば、ジョンウィックは一定のドレッシーさが求められたんじゃないかな、と個人的には理由付けました。

前提として、薄さはかなり合理的な選択理由ですね。絶対に動作の邪魔になってはいけない。

次いで秒目盛りが付いていること。タイミングを計ったり、カウントダウンするなどに当たっては秒の目盛りは必要でしょう。

視認性に優れていることも重要です。過剰な装飾がないので、視認性には優れています。 また、この時計ドレスウォッチの成りしながら夜光が付いているので、一瞬暗くなる分には判読できます。

かなり小さいので暗闇でも十分機能するかと言えばしませんが、夜間行動するなら、それ相応にライトを持参するはずだし、 暗がりでは目立たない必要性も同時にあるので「わずかに光る」は妥当な選択だと思います。

コストにおいても合理性を見出せそうです。激しく動いていれば壊れる可能性は高いでしょう。 そういう意味で代替品をすぐに用意できる程度に高すぎず、しかし一定の信頼を置くために安すぎず、は道具として優れた選択です。 貴金属を使わないのにも納得がありますね。ステンレスの方が耐久力ありますから。

で、最後の理由はドレッシーさです。ジョンウィックは活動拠点をホテルコンチネンタルに置いていました。 このホテルは特別ハイグレードというわけでもないですが、それにしても一定の品位を持ったホテルとして描かれています。 すると、そういう場所に相応しい時計が、どうしても求められるわけです。

また元々仕事としていた暗殺のターゲットは、どうしたって要人が多いでしょうから、 そういう場所に侵入するためには、一定の品位ある格好をする必要があり、タフさよりもドレッシーさが求められたんじゃないかな、と考えます。

彼のキャラクターとしての成りもスーツですからね、特殊部隊のような恰好をしているわけではありませんし(それは多くのジェームズボンドとかもそうだけど)。

特に答え合わせがない話ですが、こういうのを考えるのは面白いですね。

内側に着ける

余談ながら、時計を手首の内側に着けるの、どっかしらで流行った気がする?んですよね。自分も大学生だか高校生の頃高に父から譲り受けたCitizenのフルメタルの時計を内側に向けて着けていた記憶があります。

内側に付けるメリットとして、文字盤をぶつけない。手首の内側を何かにぶつけることってほとんどなくて、時計を守る上では結構合理的です。

ジョンウィックにしても受け身を取ったり殴りかかったりすれば、まずぶつけるのは腕の外側なので、特別タフでないこの時計が、腕の内側に時計が付いているのは至極納得。